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赤の勇者の物語4

ディラートとミアン

第一章 Ⅱ.歌声

 すっかり打ち解けた二人は湖畔に腰を下ろして話をした。ディラートが入隊のときのデルラールとの一件を、身振り手振りも加えて面白おかしく話すと、その度にミアンデルアは楽しげに笑った。
「ミアンは歌が好きなんだね」
 相手が貴族の娘と言っても、まだ子供同士。舌を噛むような丁寧語は早々に終了していた。それに何よりミアンデルア自身がそれを望み、名前も愛称で呼んで欲しいとディラートに頼んだのだ。
「ええ。とっても好きよ。もっと色々な歌を思いっきり歌いたわ」
「そっかぁ。でも、なんだってこんなところで、一人で歌ってたんだ?」
 ディラートの問いに、ミアンデルアは言葉を詰まらせる。
「そ、それは・・・その、わたし歌うのは好きだけれど、下手だから恥ずかしくて・・・ここなら、気にせずに歌えるから・・・」
 それを聞いたディラートは信じられないというように声を上げた。
「下手!? あれで下手? まさか、そんなの有り得ないよ! 俺、あんな綺麗な歌声聴いたの、生まれて初めてだよ! マジでうまかったって!」
 少年の手放しの褒め言葉に、ミアンデルアは恥ずかしげに頬を染めながらも嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
「うんうん。こんなところで一人で歌うなんて勿体無いよ。もっと大勢の人に聞いてもらった方が・・・」
 そう言い掛けた途端に、ミアンデルアは表情を暗くした。
「・・・どうした? あ、大勢の前で歌うのは嫌いとかだった?」
「いいえ・・・そういうわけでは、ないのだけれど・・・」
 そういって押し黙ってしまった少女の様子に、ディラートは焦る。
「ごめん! 何か気に障ったなら謝るよ。ごめん!」
 申し訳なさそうに頭を下げられ、今度はミアンデルアが焦る。
「あ、いいえ! ごめんなさい! 別にあなたのせいとかでは全然ないの。ちょっと、昔のことを思い出してしまって・・・」
「昔のこと?」
「・・・そう。あれは、私の7歳の誕生パーティーのとき・・・」
 そうしてミアンデルアは、その当時のことをポツリポツリと話し始めた。

 その日、ミアンデルアは7歳の誕生日を迎えた。フォーレンシュタイン侯爵夫妻は可愛い一人娘であるミアンデルアのために誕生パーティーを催すことにしていた。懇意にしている近隣の領主たちも招いての大々的なもので、これがミアンデルアの社交会デビューとなった。
 パーティー当日、ミアンデルアはガチガチに緊張していた。母親や侍女たちの勧めで、来客たちの前で歌を披露することになっていたのだ。歌はずっと小さい頃から好きで良く歌っていたが、それは気心の知れた家族や侍女たちの前でだけであった。
「お嬢様。そんなに緊張なさらないで。大丈夫ですよ」
 この時はまだ長かったミアンデルアの髪を結い上げている侍女が励ますように言う。
「で、で、でも・・・ わたし、こんないっぱいの人の前で歌うの、初めてだし・・・ そんなにうまくないし・・・」
「まあ! うまくないなんて、とんでもありませんわ。大丈夫でございますよ。お世辞抜きで、お嬢様の歌声は素晴らしいものですわ」
「ええ、その通りでございますよ。わたくしたちが保障いたします」
 衣装担当で控えている他の侍女たちもその通りだと、口々に言う。
「ほ、ほんとうに?」
「はい! だから、ご安心くださいませ。それに、お嬢様の歌声には力があるのでございますよ」
「力?」
「はい。お嬢様の歌声を聴いていると、心が満たされるのです」
「そうなんですよ。こう、胸の奥から暖かいものが湧き上がってくるような感じがするのでございます」
 ミアンデルアは首を傾げる。歌っている本人にはそんな感覚は全く感じないからだ。それでも侍女たちの言葉に励まされて、少し緊張が解けた。
「・・・わかったわ。頑張ってみるね」

 そして本番。歌うは、ラヴァートの神々を讃えた讃美歌。幼い声ながらも美しい歌声に、会場の誰もが聞き惚れていた。
 しかし、歌の後半、ラヴァートの神々がバトラとの戦いに勝利を収めたという件(くだり)に差し掛かったとき、それは突然起こった。
会場にいた一人の男が奇声を上げて近くにいた者に殴りかかったのだ。そして、それが合図だったかのように会場のあちこちで同じことが起こり、あっという間に会場は大乱闘の場と化してしまった。幸い会場に入るには武器の携帯を禁止していたため殺傷沙汰には至らなかったが、普段は冷静と秩序を重んじる者たちが、拳闘士のように我を忘れて殴り合いをする様は異常だった。
 ミアンデルアは突然の凶行に恐怖で固まっていた。侍女たちに助け出され自室に戻っても震えが止まらず、ベッドでシーツに包まって泣いた。
「どうして、こんなことに・・・ 私の、歌のせい・・・?」
 屋敷に訪れたときは、いつも優しく遊んでくれた人たちが、まるで人が変わったように殴り合いをしている光景は、純粋な子供のミアンデルアには悪夢でしかなかった。それが自分が歌を歌っているときだったから、なおさらに自分が原因かもしれないと思うと怖さが増したのだった。

「・・・それから、私は人前では決して歌わないようにしたの・・・ また、あんなことが起こらないように・・・でも、歌うのは止めたくなかったから、こうして誰もいないところで歌っていたの・・・」
 そういうと、ミアンデルアは深い溜め息をついた。
「そうか、そんなことが・・・」
 ディラートを掛ける言葉が見付からず、戸惑うしかなかった。先程歌を聞いていたときの高揚感が思い出される。無償に戦いたくなる衝動が沸き起こってきたのは確かだ。自分は途中からだったからよかったが、あれを最初から聞いていたらどうなったか判らない。確かにミアンの歌声には何か力があるのかもしれない。
「あなたは・・・」
 か細い声に顔を上げると、ミアンデルアが不安そうな顔を向けていた。
「・・・あなたは、大丈夫だった? 私の歌、聞いたのでしょ?」
 そう問い掛ける少女の顔には、縋るような思いが現れていた。やっぱり自分の歌はそうなのかと。それを見たディラートは何の躊躇いもなく笑い飛ばす。
「俺? いや、全然! 何も感じなかったなぁ」
「・・・ほんとうに?」
「うん。綺麗な声だなぁとは思って聴いてたけど、それ以外は何も。俺って鈍感なのかなぁ」
 おどけたように言うディラートの言葉に、やっとミアンデルアの表情が和らぐ。
「あ、でも、1つだけ思ったことがあった」
 急に真剣な表情に戻って言うディラートに、ミアンデルアは身構える。
「な、なにを?」
「か、可愛い子だな、て・・・」
 そういうとディラートは真っ赤になって明後日の方を向いてしまう。
ミアンデルアは一瞬何を言われたか理解できなくてキョトンとしていたが、意味を理解すると、途端に真っ赤になって俯いた。そして小さく囁く。
「・・・あ、ありがと」

 次の日、ディラートには新たな任務が追加された。フォーレンシュタイン侯爵令嬢の専属護衛の任が。

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