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赤の勇者の物語 3

ミアンデルア

第一章 Ⅰ.出会い

 晴れて傭兵部隊に入隊を果たしたディラートは、早速、領主邸の警備部隊に配属された。運よくデルラールも一緒だ。あの件以来2人はすっかり意気投合していた。このときディラートはまだ15歳だったが、実力が何より優先されるのが傭兵気質であることも幸いして、既に周りからも認められ、一目置かれる存在になっていた。
 ディラートは空き時間を持て余して、邸内をぶらぶらしていた。デルラールは今日は役人の護衛に駆り出され不在だ。
 地方貴族とは言っても領主の邸宅ともなれば、その敷地は広大である。敷地内に森もあれば泉もあるらしい。ディラートは今その森の中を歩いている。その辺で拾った木の枝を振り回しながら歩く姿は年相応に見える。もっともそれは、背負われた長剣がなければの話だが。
 森を中ほどまで来たところで、そろそろ引き返そうかと立ち止まったとき、微かに誰かの声が聞こえた気がした。その瞬間ディラートは持っていた枝を投げ捨て、背中の剣の柄に手を掛けた。神経を集中させて耳を澄ますと、確かに声が聞こえる。方角を探るため更に集中すると、その声はこの先の森の奥から聞こえてくるようだ。一応警備隊という立場上、確認はしておいた方が良いだろうと判断して、ディラートは警戒しながら声のする方へ向かった。
 近付くにつれ、声がはっきりしてくる。いや、声というよりそれは歌声だった。しかも、それは女性の歌声だ。敵ではないと判ってディラートは警戒を解いて剣の柄から手を放した。ここで引き換えしても良かったが、ディラートは誰が歌っているのだろうと興味が湧いて先に進むことにした。そうした好奇心旺盛なところは年相応と言えるだろう。
 敷地内とは思えない深い森を歌声に導かれるように進むと不意に視界が開け、目の前に静かな水を湛えた泉が現れた。そしてその泉の畔で一人の少女が佇み、歌を歌っていた。

 高級そうな衣服から、恐らくはここの領主の関係者だろう。もしかしたら領主の娘かもしれない。淡い桃色の髪が風にサラサラと揺れる。貴族の娘にしては珍しく、その髪は短く顎の辺りで切り揃えられている。貴族の令嬢といえば、長い髪を結い上げているのが一般的だ。しかし、庶民出のディラートには短い髪の女の子の方が見慣れているし好ましい。市中の女の子たちは働かなければならないので長い髪は逆に邪魔で、短くしている子が多いのだ。
 女の子はこちらに気付かずに歌い続けている。歌っているのはどうやら恋の歌のようだ。叶わぬ恋に嘆きながらも、相手への愛しい気持ちを色々な言葉で表している。聴いているこちらが気恥ずかしくなるような甘い恋の歌だ。
 ディラートはその少女の歌声に聞き惚れていた。こんな綺麗な歌声を聴いたのは初めてだった。それにその歌声を聴いているうちに何か気持ちが沸き立つのを感じる。次第にそれは高揚感となり身体の内側から力が漲ってくる。
「な、なんだ・・・これは・・・」
 ディラートは自分の両手を見下ろして手を握ったり開いたりしてみると、何か普段より力が増したような感じがする。気持ちが高揚して、今なら誰にも負けない。誰かと戦いたい。無償にそんな気持ちになり、我知らず剣の柄に手が伸びたが、途中で我に返り、慌てて手を降ろした。
 気付けば少女の歌声は止まっていた。少女の方を見やると、胸元で両手を組み、余韻に浸るようにまだ目を閉じている。美しい少女だ。真っ白な肌に桃色の髪が映える。
身体の不可解な高揚感は徐々に治まってきた。しかし、何故か胸のドキドキは治まらない。訳が分からず深い溜め息を漏らすと、背負った剣の留め金具が僅かに音を立てた。
次の瞬間、少女が弾かれたようにディラートの方へ振り返った。
「ッ!?」
 少女は怯えた顔で後退ったが、相手が自分と同じくらいの歳の少年であることに気付いて緊張を解いた。そして次の瞬間、顔が見る間に真っ赤になって恥ずかしそうに俯いた。
 それを見たディラートは慌てる。
「ご、ごめん! 盗み聞きするつもりはなかったんだ! 森を歩いていたら声が聞こえて・・・ そ、それで、俺、警備隊に入ったから、一応確認しておかなくちゃって、それで、それで・・・」
 冷や汗を流しながら、しどろもどろに弁解するディラートは、昨日のデルラールとの立会いの時の不敵さが嘘のようだった。どうやら女の子には弱いらしい。
「・・・ぷっ」
 そんなディラートの様子に、女の子は小さく噴き出すと、コロコロと笑い声を上げた。それでディラートもホッと息をついて苦笑しながら頭を掻く。
緊張が解けた女の子は歩み寄ると、ディラートに好奇心に満ちたキラキラした目を向ける。ディラートはこの歳では背が高い方なので見上げる形になる。
「凄腕の男の子が入隊したって女中たちが話していたけど、あなたのことなのね?」
「まあ、ね。でも、凄腕なんかじゃないさ。俺なんてまだまだだよ。デルラールだって手加減してくれてたし」
 傍目では対等にわたり合ったように見えるが、実際にはデルラールは相手が子供だと思って全力は出していなかった。どんなに剣が速くても、体格の差は大きい。力で押し切られたらさすがに敵わなかっただろう。ディラートもそれは自覚しているから決して驕ることはことはしない。
 しかし女の子にはそんなディラートの内情は判らない。軽く首を傾げる。
「そうなの? でもその歳で入隊なんてすごいのね!」
「まあ、他に取り柄ないし・・・ ところで、君はここの領主の?」
「ええ。フォーレンシュタイン侯爵の娘、ミアンデルアと申します」
 そういうと女の子、ミアンデルアは、ドレスのスカートを軽く摘まんで優雅に挨拶する。
 ディラートも慌てて直立不動になって名乗る。
「俺は、いや、じ、自分は、ディラートと、申します。お、お見知りおきを、ミ、ミアンデルアさ、ばっ痛!」
 慣れない丁寧語に思いっきり舌を噛んでしまい涙目になったディラートに、ミアンデルアは再び噴き出して楽しそうに笑い声を上げた。

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