スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

赤の勇者の物語 2

ディラートとデルラール

~プロローグ2

「おいおい! これはどういうことだ? ここは託児所の募集か何かかぁ?!」
 入隊の受け付けを待つ列の中ほどから突然大声が上がった。皆が驚いて声の方をみると、灰色の短髪に赤いバンダナを巻いた大柄の男が、いかにも呆れたというように大袈裟に肩を竦めている。
 ここはハイエルラートの外れ、地方貴族フォーレンシュタインが統治する街エンダンテ。戦争の長期化で治安が悪化してきたため領主のフォーレンシュタインが兵力増強と治安維持のために傭兵部隊の募集を行っていた。
 その男は呆れたような視線を列の前方に向けている。その視線の先には、立ち並ぶ男たちより頭1つ分は背が低い小柄な少年が列に並んでいた。収まりの悪いこげ茶色の髪の下の顔は美少年といってよいほど整っている。そして裾の長い赤い上着を着た背には、小柄な体に不釣り合いな長剣が背負われていた。少年は男の大声にも我関せずというように前を向いたままだ。
「おい! そこのボウズ! お前だ、お前!」
 男が更に大声を上げたところで、少年はさも面倒くさいというように振り返って男の方を見た。
「そうだ、お前のことだ! ここは子供のくるところじゃねぇぞ! とっとと帰んな!」
 怒鳴られた少年はしばらく黙って男を見ていたが、口元を僅かに笑いの形に歪めると、
「フンッ」
 軽く鼻で笑って興味は失せたとばかりに再び前に向き直る。少年の不敵な態度に周りにいた連中は、呆れると同時にやっちまったなと思った。これはただでは済まないだろう。案の定、少年に鼻であしらわれた男は怒りに顔を真っ赤に染めていた。
「こ、このガキっ!」
男は少年に詰め寄ると、その胸倉を乱暴に掴み上げる。それでも少年は迷惑そうに顔を顰めるだけだ。
「何度も言わせるなよ、糞ガキ。ここは子供のくるところじゃねぇんだ」
 凄みを効かせた男の言葉にも、少年は顔色一つ変えずに言い返す。
「・・・そんなことは判っている」
「いいや、判ってないな。・・・遊びじゃねぇんだよ、俺たちは」
 男の気配は、もはや殺気に近いものになっている。その辺の町のチンピラなら震え上がって逃げ出すところだ。しかし少年は臆する様子もない。
「俺も遊びできてるわけじゃない。それ相応の覚悟できている」
 少年の生意気な言葉に、ついに男がキレた。突き飛ばすように少年を放す。
「上等だ。なら、その覚悟とやらをみせてもらおうか」
 そういうと男は腰の剣に手を掛けた。周りの者たちはギョッとなって慌てて2人から離れる。しかし、その中の年嵩の男が見兼ねたように男に声を掛けた。
「おいおい、あんたも少しは落ち着けよ。それこそ子供相手に大人げないのではないか?」
「ふん。引っ込んでいてもらおうか。なに、ちょっと大人の世界の厳しさを教えてやるだけだ」
 もう止めても無駄だろうと年嵩の男もやれやれと溜息をつくと、ほどほどになと言いながら後ろへ下がっていった。
「冗談でも傭兵に志願しようってなら、多少腕には自信があるんだろう? なら俺がここで特別に一次試験をしてやる」
 そういって男が本当に剣を抜くと、辺りに緊張が走る。男の剣は刀身が湾曲した南方で良く使われる剣だ。
 少年は男の剣を見やると深い溜め息をついた。そして背中の剣の柄を右手で握り、左手で下の鞘の先を掴むと両手を広げるようにして長剣を抜き放った。現れたのは珍しい黒い刀身の長剣だった。パッと見だけでも相当な力を秘めているのが見て取れるほどだ。
「やるというからには仕方がない。でも先に言っておく。俺、強いよ !!」
 言い切ると同時に少年は駆け出して間合いを一瞬で詰めていく。しかし、男はそれを予想していたかのように素早くバックステップし剣を構える。余裕で受けるつもりだったが思わぬ誤算があった。まだ間合いに入っていないと思っていた位置から、少年は剣を横薙ぎに振ってきた。
「ちぃっ!」
 首筋を狙ってきた長剣をギリギリのところで剣で受けた。予想外に重い一撃に男は慌てて力を込める。
 想定外の少年の強さに戸惑っている男に、少年は見上げるようにして不敵にニヤっと笑った。
 そこから少年のラッシュが始まった。縦横無尽に漆黒の剣が舞う。自らの非力をカバーするために、振り抜いた剣の流れに逆らわず円を描くように剣を振るう。この円を描く動きから生まれる遠心力を利用して打撃に重みを乗せているのだ。
 周りで見たいた者たちは少年の戦いぶりに皆唖然としていた。始まる前は大熊に犬が挑むようなものだと思っていたが、とんでもない。犬は犬でも、これは鋭い牙を持った狼だ。
 しかし、男も少年のラッシュをよく防いでいる。始めのうちは焦りが見えていたが、今はその表情に余裕が生まれていた。
 ガキーンッ!! と、一際大きな衝突音が響くと、両者は一旦離れて距離をとった。
 少年は長剣を担ぐようにすると、大きく息を吐いた。しかし、あれだけのラッシュにも、まだ息は乱れていない。
「まだ、やるのか?」
 少年の問いに、男は突然声を上げて笑い始めた。訝しげに見やる少年を余所に、男はひとしきり笑うと晴々とした顔になって言った。
「やるなーボウズ。これは俺の目が節穴だったな。これほどの使い手だったとは。見た目だけで判断したのはこちらの落ち度だ。素直に謝ろう。さっきは済まなかった」
 そういって男は、少年に対して頭を下げた。これには少年も呆気にとられる。こんなにもあっさりと自分の非を認めるとは。
「それで、これはこちらからの頼みなんだが、もういっちょ手合せを願えるかな? 今度はこちらも相応にやらせてもうおう」
 すると男は左手を背中に回して、もう一本の剣を抜き放った。
 それを見た少年は初めて表情を和らげた。
「いいぜ、おっさん。一度二刀流ってやつともやってみたかったんだ」
 そんな少年からは生意気さが抜けて、好敵手に出会えた喜びを素直に出している。
 周りで固唾をのんで成り行きを見守っていた者たちも、どうやら最初の一悶着は収まったと判って緊張を解いた。そしてこれから始まる滅多に見られない好試合に期待を膨らませる。あちこちからヤジも上がるようになっていた。
「いくぜ、おっさん」
「来い、ボウズ!」
 そうして二人の激しい攻防は、騒ぎを聞きつけてきた役人に止められるまで続いた。
 さすがに息を切らした二人はその場に座り込む。
「いやいや、参った参った。よくそんな長物を振り回すよな。まるで鞭で攻撃されているみたいだったぞ」
「ははは。おっさんもその図体で良く動く。俺の6連撃を全部防いだのはおっさんが初めてだ」
 2人はお互いをみてニヤッとすると、どちらからともなく手を差し出して、がっしりと握手を交わした。
「名を聞こう。俺はデルラールだ」
「俺はディラート。よろしくな、おっさん」
「おい、さっきから気になってたんだが、おっさん、おっさん、失礼な!」
「だって、おっさんだろ?」
「おっさんじゃない! 俺はまだ25だ!」
「ええぇ? マジ? 嘘だろ? どう見ても35は超えてると思った」
 ディラートの本気の驚きに、デルラールは心底傷ついたような顔になっていた。

コメントの投稿

非公開コメント

来訪者
プロフィール

真夜中の戦女神ギルド

Author:真夜中の戦女神ギルド
アルテイル・ギルド
真夜中の戦女神
(ギルドマスター:ラトウェル)

イクサー交流用ブログです

検索フォーム
リンク
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。