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赤の勇者の物語4

ディラートとミアン

第一章 Ⅱ.歌声

 すっかり打ち解けた二人は湖畔に腰を下ろして話をした。ディラートが入隊のときのデルラールとの一件を、身振り手振りも加えて面白おかしく話すと、その度にミアンデルアは楽しげに笑った。
「ミアンは歌が好きなんだね」
 相手が貴族の娘と言っても、まだ子供同士。舌を噛むような丁寧語は早々に終了していた。それに何よりミアンデルア自身がそれを望み、名前も愛称で呼んで欲しいとディラートに頼んだのだ。
「ええ。とっても好きよ。もっと色々な歌を思いっきり歌いたわ」
「そっかぁ。でも、なんだってこんなところで、一人で歌ってたんだ?」
 ディラートの問いに、ミアンデルアは言葉を詰まらせる。
「そ、それは・・・その、わたし歌うのは好きだけれど、下手だから恥ずかしくて・・・ここなら、気にせずに歌えるから・・・」
 それを聞いたディラートは信じられないというように声を上げた。
「下手!? あれで下手? まさか、そんなの有り得ないよ! 俺、あんな綺麗な歌声聴いたの、生まれて初めてだよ! マジでうまかったって!」
 少年の手放しの褒め言葉に、ミアンデルアは恥ずかしげに頬を染めながらも嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
「うんうん。こんなところで一人で歌うなんて勿体無いよ。もっと大勢の人に聞いてもらった方が・・・」
 そう言い掛けた途端に、ミアンデルアは表情を暗くした。
「・・・どうした? あ、大勢の前で歌うのは嫌いとかだった?」
「いいえ・・・そういうわけでは、ないのだけれど・・・」
 そういって押し黙ってしまった少女の様子に、ディラートは焦る。
「ごめん! 何か気に障ったなら謝るよ。ごめん!」
 申し訳なさそうに頭を下げられ、今度はミアンデルアが焦る。
「あ、いいえ! ごめんなさい! 別にあなたのせいとかでは全然ないの。ちょっと、昔のことを思い出してしまって・・・」
「昔のこと?」
「・・・そう。あれは、私の7歳の誕生パーティーのとき・・・」
 そうしてミアンデルアは、その当時のことをポツリポツリと話し始めた。

 その日、ミアンデルアは7歳の誕生日を迎えた。フォーレンシュタイン侯爵夫妻は可愛い一人娘であるミアンデルアのために誕生パーティーを催すことにしていた。懇意にしている近隣の領主たちも招いての大々的なもので、これがミアンデルアの社交会デビューとなった。
 パーティー当日、ミアンデルアはガチガチに緊張していた。母親や侍女たちの勧めで、来客たちの前で歌を披露することになっていたのだ。歌はずっと小さい頃から好きで良く歌っていたが、それは気心の知れた家族や侍女たちの前でだけであった。
「お嬢様。そんなに緊張なさらないで。大丈夫ですよ」
 この時はまだ長かったミアンデルアの髪を結い上げている侍女が励ますように言う。
「で、で、でも・・・ わたし、こんないっぱいの人の前で歌うの、初めてだし・・・ そんなにうまくないし・・・」
「まあ! うまくないなんて、とんでもありませんわ。大丈夫でございますよ。お世辞抜きで、お嬢様の歌声は素晴らしいものですわ」
「ええ、その通りでございますよ。わたくしたちが保障いたします」
 衣装担当で控えている他の侍女たちもその通りだと、口々に言う。
「ほ、ほんとうに?」
「はい! だから、ご安心くださいませ。それに、お嬢様の歌声には力があるのでございますよ」
「力?」
「はい。お嬢様の歌声を聴いていると、心が満たされるのです」
「そうなんですよ。こう、胸の奥から暖かいものが湧き上がってくるような感じがするのでございます」
 ミアンデルアは首を傾げる。歌っている本人にはそんな感覚は全く感じないからだ。それでも侍女たちの言葉に励まされて、少し緊張が解けた。
「・・・わかったわ。頑張ってみるね」

 そして本番。歌うは、ラヴァートの神々を讃えた讃美歌。幼い声ながらも美しい歌声に、会場の誰もが聞き惚れていた。
 しかし、歌の後半、ラヴァートの神々がバトラとの戦いに勝利を収めたという件(くだり)に差し掛かったとき、それは突然起こった。
会場にいた一人の男が奇声を上げて近くにいた者に殴りかかったのだ。そして、それが合図だったかのように会場のあちこちで同じことが起こり、あっという間に会場は大乱闘の場と化してしまった。幸い会場に入るには武器の携帯を禁止していたため殺傷沙汰には至らなかったが、普段は冷静と秩序を重んじる者たちが、拳闘士のように我を忘れて殴り合いをする様は異常だった。
 ミアンデルアは突然の凶行に恐怖で固まっていた。侍女たちに助け出され自室に戻っても震えが止まらず、ベッドでシーツに包まって泣いた。
「どうして、こんなことに・・・ 私の、歌のせい・・・?」
 屋敷に訪れたときは、いつも優しく遊んでくれた人たちが、まるで人が変わったように殴り合いをしている光景は、純粋な子供のミアンデルアには悪夢でしかなかった。それが自分が歌を歌っているときだったから、なおさらに自分が原因かもしれないと思うと怖さが増したのだった。

「・・・それから、私は人前では決して歌わないようにしたの・・・ また、あんなことが起こらないように・・・でも、歌うのは止めたくなかったから、こうして誰もいないところで歌っていたの・・・」
 そういうと、ミアンデルアは深い溜め息をついた。
「そうか、そんなことが・・・」
 ディラートを掛ける言葉が見付からず、戸惑うしかなかった。先程歌を聞いていたときの高揚感が思い出される。無償に戦いたくなる衝動が沸き起こってきたのは確かだ。自分は途中からだったからよかったが、あれを最初から聞いていたらどうなったか判らない。確かにミアンの歌声には何か力があるのかもしれない。
「あなたは・・・」
 か細い声に顔を上げると、ミアンデルアが不安そうな顔を向けていた。
「・・・あなたは、大丈夫だった? 私の歌、聞いたのでしょ?」
 そう問い掛ける少女の顔には、縋るような思いが現れていた。やっぱり自分の歌はそうなのかと。それを見たディラートは何の躊躇いもなく笑い飛ばす。
「俺? いや、全然! 何も感じなかったなぁ」
「・・・ほんとうに?」
「うん。綺麗な声だなぁとは思って聴いてたけど、それ以外は何も。俺って鈍感なのかなぁ」
 おどけたように言うディラートの言葉に、やっとミアンデルアの表情が和らぐ。
「あ、でも、1つだけ思ったことがあった」
 急に真剣な表情に戻って言うディラートに、ミアンデルアは身構える。
「な、なにを?」
「か、可愛い子だな、て・・・」
 そういうとディラートは真っ赤になって明後日の方を向いてしまう。
ミアンデルアは一瞬何を言われたか理解できなくてキョトンとしていたが、意味を理解すると、途端に真っ赤になって俯いた。そして小さく囁く。
「・・・あ、ありがと」

 次の日、ディラートには新たな任務が追加された。フォーレンシュタイン侯爵令嬢の専属護衛の任が。
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赤の勇者の物語 3

ミアンデルア

第一章 Ⅰ.出会い

 晴れて傭兵部隊に入隊を果たしたディラートは、早速、領主邸の警備部隊に配属された。運よくデルラールも一緒だ。あの件以来2人はすっかり意気投合していた。このときディラートはまだ15歳だったが、実力が何より優先されるのが傭兵気質であることも幸いして、既に周りからも認められ、一目置かれる存在になっていた。
 ディラートは空き時間を持て余して、邸内をぶらぶらしていた。デルラールは今日は役人の護衛に駆り出され不在だ。
 地方貴族とは言っても領主の邸宅ともなれば、その敷地は広大である。敷地内に森もあれば泉もあるらしい。ディラートは今その森の中を歩いている。その辺で拾った木の枝を振り回しながら歩く姿は年相応に見える。もっともそれは、背負われた長剣がなければの話だが。
 森を中ほどまで来たところで、そろそろ引き返そうかと立ち止まったとき、微かに誰かの声が聞こえた気がした。その瞬間ディラートは持っていた枝を投げ捨て、背中の剣の柄に手を掛けた。神経を集中させて耳を澄ますと、確かに声が聞こえる。方角を探るため更に集中すると、その声はこの先の森の奥から聞こえてくるようだ。一応警備隊という立場上、確認はしておいた方が良いだろうと判断して、ディラートは警戒しながら声のする方へ向かった。
 近付くにつれ、声がはっきりしてくる。いや、声というよりそれは歌声だった。しかも、それは女性の歌声だ。敵ではないと判ってディラートは警戒を解いて剣の柄から手を放した。ここで引き換えしても良かったが、ディラートは誰が歌っているのだろうと興味が湧いて先に進むことにした。そうした好奇心旺盛なところは年相応と言えるだろう。
 敷地内とは思えない深い森を歌声に導かれるように進むと不意に視界が開け、目の前に静かな水を湛えた泉が現れた。そしてその泉の畔で一人の少女が佇み、歌を歌っていた。

 高級そうな衣服から、恐らくはここの領主の関係者だろう。もしかしたら領主の娘かもしれない。淡い桃色の髪が風にサラサラと揺れる。貴族の娘にしては珍しく、その髪は短く顎の辺りで切り揃えられている。貴族の令嬢といえば、長い髪を結い上げているのが一般的だ。しかし、庶民出のディラートには短い髪の女の子の方が見慣れているし好ましい。市中の女の子たちは働かなければならないので長い髪は逆に邪魔で、短くしている子が多いのだ。
 女の子はこちらに気付かずに歌い続けている。歌っているのはどうやら恋の歌のようだ。叶わぬ恋に嘆きながらも、相手への愛しい気持ちを色々な言葉で表している。聴いているこちらが気恥ずかしくなるような甘い恋の歌だ。
 ディラートはその少女の歌声に聞き惚れていた。こんな綺麗な歌声を聴いたのは初めてだった。それにその歌声を聴いているうちに何か気持ちが沸き立つのを感じる。次第にそれは高揚感となり身体の内側から力が漲ってくる。
「な、なんだ・・・これは・・・」
 ディラートは自分の両手を見下ろして手を握ったり開いたりしてみると、何か普段より力が増したような感じがする。気持ちが高揚して、今なら誰にも負けない。誰かと戦いたい。無償にそんな気持ちになり、我知らず剣の柄に手が伸びたが、途中で我に返り、慌てて手を降ろした。
 気付けば少女の歌声は止まっていた。少女の方を見やると、胸元で両手を組み、余韻に浸るようにまだ目を閉じている。美しい少女だ。真っ白な肌に桃色の髪が映える。
身体の不可解な高揚感は徐々に治まってきた。しかし、何故か胸のドキドキは治まらない。訳が分からず深い溜め息を漏らすと、背負った剣の留め金具が僅かに音を立てた。
次の瞬間、少女が弾かれたようにディラートの方へ振り返った。
「ッ!?」
 少女は怯えた顔で後退ったが、相手が自分と同じくらいの歳の少年であることに気付いて緊張を解いた。そして次の瞬間、顔が見る間に真っ赤になって恥ずかしそうに俯いた。
 それを見たディラートは慌てる。
「ご、ごめん! 盗み聞きするつもりはなかったんだ! 森を歩いていたら声が聞こえて・・・ そ、それで、俺、警備隊に入ったから、一応確認しておかなくちゃって、それで、それで・・・」
 冷や汗を流しながら、しどろもどろに弁解するディラートは、昨日のデルラールとの立会いの時の不敵さが嘘のようだった。どうやら女の子には弱いらしい。
「・・・ぷっ」
 そんなディラートの様子に、女の子は小さく噴き出すと、コロコロと笑い声を上げた。それでディラートもホッと息をついて苦笑しながら頭を掻く。
緊張が解けた女の子は歩み寄ると、ディラートに好奇心に満ちたキラキラした目を向ける。ディラートはこの歳では背が高い方なので見上げる形になる。
「凄腕の男の子が入隊したって女中たちが話していたけど、あなたのことなのね?」
「まあ、ね。でも、凄腕なんかじゃないさ。俺なんてまだまだだよ。デルラールだって手加減してくれてたし」
 傍目では対等にわたり合ったように見えるが、実際にはデルラールは相手が子供だと思って全力は出していなかった。どんなに剣が速くても、体格の差は大きい。力で押し切られたらさすがに敵わなかっただろう。ディラートもそれは自覚しているから決して驕ることはことはしない。
 しかし女の子にはそんなディラートの内情は判らない。軽く首を傾げる。
「そうなの? でもその歳で入隊なんてすごいのね!」
「まあ、他に取り柄ないし・・・ ところで、君はここの領主の?」
「ええ。フォーレンシュタイン侯爵の娘、ミアンデルアと申します」
 そういうと女の子、ミアンデルアは、ドレスのスカートを軽く摘まんで優雅に挨拶する。
 ディラートも慌てて直立不動になって名乗る。
「俺は、いや、じ、自分は、ディラートと、申します。お、お見知りおきを、ミ、ミアンデルアさ、ばっ痛!」
 慣れない丁寧語に思いっきり舌を噛んでしまい涙目になったディラートに、ミアンデルアは再び噴き出して楽しそうに笑い声を上げた。

赤の勇者の物語 2

ディラートとデルラール

~プロローグ2

「おいおい! これはどういうことだ? ここは託児所の募集か何かかぁ?!」
 入隊の受け付けを待つ列の中ほどから突然大声が上がった。皆が驚いて声の方をみると、灰色の短髪に赤いバンダナを巻いた大柄の男が、いかにも呆れたというように大袈裟に肩を竦めている。
 ここはハイエルラートの外れ、地方貴族フォーレンシュタインが統治する街エンダンテ。戦争の長期化で治安が悪化してきたため領主のフォーレンシュタインが兵力増強と治安維持のために傭兵部隊の募集を行っていた。
 その男は呆れたような視線を列の前方に向けている。その視線の先には、立ち並ぶ男たちより頭1つ分は背が低い小柄な少年が列に並んでいた。収まりの悪いこげ茶色の髪の下の顔は美少年といってよいほど整っている。そして裾の長い赤い上着を着た背には、小柄な体に不釣り合いな長剣が背負われていた。少年は男の大声にも我関せずというように前を向いたままだ。
「おい! そこのボウズ! お前だ、お前!」
 男が更に大声を上げたところで、少年はさも面倒くさいというように振り返って男の方を見た。
「そうだ、お前のことだ! ここは子供のくるところじゃねぇぞ! とっとと帰んな!」
 怒鳴られた少年はしばらく黙って男を見ていたが、口元を僅かに笑いの形に歪めると、
「フンッ」
 軽く鼻で笑って興味は失せたとばかりに再び前に向き直る。少年の不敵な態度に周りにいた連中は、呆れると同時にやっちまったなと思った。これはただでは済まないだろう。案の定、少年に鼻であしらわれた男は怒りに顔を真っ赤に染めていた。
「こ、このガキっ!」
男は少年に詰め寄ると、その胸倉を乱暴に掴み上げる。それでも少年は迷惑そうに顔を顰めるだけだ。
「何度も言わせるなよ、糞ガキ。ここは子供のくるところじゃねぇんだ」
 凄みを効かせた男の言葉にも、少年は顔色一つ変えずに言い返す。
「・・・そんなことは判っている」
「いいや、判ってないな。・・・遊びじゃねぇんだよ、俺たちは」
 男の気配は、もはや殺気に近いものになっている。その辺の町のチンピラなら震え上がって逃げ出すところだ。しかし少年は臆する様子もない。
「俺も遊びできてるわけじゃない。それ相応の覚悟できている」
 少年の生意気な言葉に、ついに男がキレた。突き飛ばすように少年を放す。
「上等だ。なら、その覚悟とやらをみせてもらおうか」
 そういうと男は腰の剣に手を掛けた。周りの者たちはギョッとなって慌てて2人から離れる。しかし、その中の年嵩の男が見兼ねたように男に声を掛けた。
「おいおい、あんたも少しは落ち着けよ。それこそ子供相手に大人げないのではないか?」
「ふん。引っ込んでいてもらおうか。なに、ちょっと大人の世界の厳しさを教えてやるだけだ」
 もう止めても無駄だろうと年嵩の男もやれやれと溜息をつくと、ほどほどになと言いながら後ろへ下がっていった。
「冗談でも傭兵に志願しようってなら、多少腕には自信があるんだろう? なら俺がここで特別に一次試験をしてやる」
 そういって男が本当に剣を抜くと、辺りに緊張が走る。男の剣は刀身が湾曲した南方で良く使われる剣だ。
 少年は男の剣を見やると深い溜め息をついた。そして背中の剣の柄を右手で握り、左手で下の鞘の先を掴むと両手を広げるようにして長剣を抜き放った。現れたのは珍しい黒い刀身の長剣だった。パッと見だけでも相当な力を秘めているのが見て取れるほどだ。
「やるというからには仕方がない。でも先に言っておく。俺、強いよ !!」
 言い切ると同時に少年は駆け出して間合いを一瞬で詰めていく。しかし、男はそれを予想していたかのように素早くバックステップし剣を構える。余裕で受けるつもりだったが思わぬ誤算があった。まだ間合いに入っていないと思っていた位置から、少年は剣を横薙ぎに振ってきた。
「ちぃっ!」
 首筋を狙ってきた長剣をギリギリのところで剣で受けた。予想外に重い一撃に男は慌てて力を込める。
 想定外の少年の強さに戸惑っている男に、少年は見上げるようにして不敵にニヤっと笑った。
 そこから少年のラッシュが始まった。縦横無尽に漆黒の剣が舞う。自らの非力をカバーするために、振り抜いた剣の流れに逆らわず円を描くように剣を振るう。この円を描く動きから生まれる遠心力を利用して打撃に重みを乗せているのだ。
 周りで見たいた者たちは少年の戦いぶりに皆唖然としていた。始まる前は大熊に犬が挑むようなものだと思っていたが、とんでもない。犬は犬でも、これは鋭い牙を持った狼だ。
 しかし、男も少年のラッシュをよく防いでいる。始めのうちは焦りが見えていたが、今はその表情に余裕が生まれていた。
 ガキーンッ!! と、一際大きな衝突音が響くと、両者は一旦離れて距離をとった。
 少年は長剣を担ぐようにすると、大きく息を吐いた。しかし、あれだけのラッシュにも、まだ息は乱れていない。
「まだ、やるのか?」
 少年の問いに、男は突然声を上げて笑い始めた。訝しげに見やる少年を余所に、男はひとしきり笑うと晴々とした顔になって言った。
「やるなーボウズ。これは俺の目が節穴だったな。これほどの使い手だったとは。見た目だけで判断したのはこちらの落ち度だ。素直に謝ろう。さっきは済まなかった」
 そういって男は、少年に対して頭を下げた。これには少年も呆気にとられる。こんなにもあっさりと自分の非を認めるとは。
「それで、これはこちらからの頼みなんだが、もういっちょ手合せを願えるかな? 今度はこちらも相応にやらせてもうおう」
 すると男は左手を背中に回して、もう一本の剣を抜き放った。
 それを見た少年は初めて表情を和らげた。
「いいぜ、おっさん。一度二刀流ってやつともやってみたかったんだ」
 そんな少年からは生意気さが抜けて、好敵手に出会えた喜びを素直に出している。
 周りで固唾をのんで成り行きを見守っていた者たちも、どうやら最初の一悶着は収まったと判って緊張を解いた。そしてこれから始まる滅多に見られない好試合に期待を膨らませる。あちこちからヤジも上がるようになっていた。
「いくぜ、おっさん」
「来い、ボウズ!」
 そうして二人の激しい攻防は、騒ぎを聞きつけてきた役人に止められるまで続いた。
 さすがに息を切らした二人はその場に座り込む。
「いやいや、参った参った。よくそんな長物を振り回すよな。まるで鞭で攻撃されているみたいだったぞ」
「ははは。おっさんもその図体で良く動く。俺の6連撃を全部防いだのはおっさんが初めてだ」
 2人はお互いをみてニヤッとすると、どちらからともなく手を差し出して、がっしりと握手を交わした。
「名を聞こう。俺はデルラールだ」
「俺はディラート。よろしくな、おっさん」
「おい、さっきから気になってたんだが、おっさん、おっさん、失礼な!」
「だって、おっさんだろ?」
「おっさんじゃない! 俺はまだ25だ!」
「ええぇ? マジ? 嘘だろ? どう見ても35は超えてると思った」
 ディラートの本気の驚きに、デルラールは心底傷ついたような顔になっていた。

『赤の勇者の物語』 プロローグ1

ディラート
ディラートが好きで、ディラートがミアンデルアを助け出すまでの物語をできる限り公式設定に沿って書いてみたい!と思い立って書き始めていたオリジナル小説です。
カサンドラやイベール、エスリアとノゼなど絡んでいく話です。
まだ少しだけで全然進んでなく拙い文章ですが、良ければご一読を^-^
アルテSNSにアップしたものをこちらでも掲載していきます

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『赤の勇者の物語』

 神々によって創られたといわれるラヴァート世界も人々の争いが無くなることはなかった。
月公国と隣国バルテメイト王国との戦争に、大国である太陽王国が参戦したことによって、戦況は悪化の一途を辿っている。噂では人ならざる物までが戦争の道具として使われているという。
また原因不明の奇病「獣化病」がラヴァート全土に広がってきており、化け物と化したものが人を襲うという事件が各地で起こっている。戦地から遠く離れた地でも人々は不安な日々を送っていた。

~プロローグ 1

 海神ヴォンドラームが治める大海に近い山地、グランドサーフェスの山奥に、俗世から隠れるように佇む小さな村がある。狩りを主な生業としており、極まれに狩りの途中で魔法の源となる輝晶石を採取し、その輝晶石を使って武器や魔導具を作るのも重要な収入源としていた。特にグランドサーフェスで採れる輝晶石は純度が高く魔力を蓄え易いので結構な額で取り引きされている。
 そんな小さな村の入り口に、一人の女が佇んでいた。白い肌に緩やかにウェーブした藍色の髪。全体的に黒を基調とした服装で外套の上からも女性的なラインが判る。妖艶ながら鋭さを持った紅い瞳の美しい顔も、しかし、今は呆然としていた。
「これは・・・ いったい何があったんだ・・・」
 簡素ながらも美しい街並みだったリーンの村は、焼け野原と化していた。家屋のほとんどは焼け落ちて、そこかしこに住民たちの遺体が転がり、まるで地獄絵図のようだ。
 女は暫し呆然としていたが、ハッと我に返り、焼け落ちた家の中や、遺体を確認していく。まだ煙が上がっている所もあるので、恐らく襲撃されてからまだそんなに時間は経っていないだろう。もしかしたら生存者がいるかもしれない。それに自分は探し出さなければならない。命を賭して戦って散った親友ローザから託された者を。
 1時間ほど探したが生存者は見付からなかった。そして探していた者も。顔見知りだった者たちの死を確認して廻るのは辛い作業だった。同族のよしみで良くしてくれた気さくな村人たちの笑顔が眼に浮かんでくる。
いたたまれなくなって村を出ようとしたとき、微かな呻き声が聞こえた気がした。
「どこだ!」
 女は大声で叫ぶと、近くの焼け跡で何かが倒れる音がした。慌てて駆け寄ると、落ちた屋根の木材が僅かに動いている。
「ここか! 待っていろ! 今どかしてやる」
 女はそう言って、まだ燻っている木材を慎重にどかしていく。
「! エトヴァじゃないか! おい、無事か?!」
 エトヴァは村で武具屋をやっていた男だ。そして何よりエトヴァはローザの父親だった。
 女の声にエトヴァは呻きながら薄っすらと目を向けてきた。
「うぅ・・・ あ・・・ あぁ、フ、フランシスか・・・ ひさし、ぶりだな・・・」
「何を暢気な! すぐ手当てをしてやるからな! ・・・!!」
 女、フランシスは、エトヴァに覆い被さっていた大きな板を持ち上げて息を呑んだ。エトヴァの下半身は倒れた太い柱に潰されていた。これではもう助からない。さすがに見るに耐えず、持ち上げた板をそっと元に戻すと、フランシスはエトヴァの傍らに膝を突いた。
「慰めは言わない。もう長くは保たないだろう・・・」
 悲痛な顔のフランシスに、エトヴァは無理やり笑みを浮かべる。
「ああ、わかって、いるさ・・・ 気に、するな」
「・・・何があった?」
「あ、あっと、いう間だった・・・ ガルディ、なんとか、と、いうやつが・・・軍隊、を連れてやってきて・・・」
「ガルディ? ・・・もしや、ガルディレアのことか?」
「ああ、そうだ。た、たしか、そう言っていた・・・」
 今の戦争に加担して『深遠の策士』と呼ばれているガルディレア。何か怪しげな研究をしていると噂があり、その研究のためには手段を選ばないとも聞いている。そして、何よりガルディレアは憎むべき仇だった。しかし、こんな山奥の村に何故?
「何故、奴がこの村に?」
「お、おそらく、先月、ロ、ローザが持ち帰った、大型の、高純度の輝晶石が、目当てだった、んだろう・・・ ゴホッゴホッ! ゴボッ!」
 咳き込んだエトヴァが血を吐いた。フランシスは慌ててエトヴァの顔を横に向けてやる。吐いた血で窒息しないようにするためだ。
「わかった! もう喋るな!」
 何か血を拭ってやるものはないかと、立ち上がろうとしたフランシスの腕をエトヴァが掴んで引き止める。
「フ、フランシス、た、頼みが、ある! ゴホッ! む、娘を! 娘を頼む! ゴホッゴボッ!」
 再び血を吐いたエトヴァの瞳から徐々に光りが消えていく。フランシスはエトヴァの意識を繋ぎ止めようと大声で話しかける。
「娘?! 生きているのか?! どこにいるんだ?!」
 エトヴァの口が微かに動いているのを見て、フランシスはエトヴァに口元に耳を寄せた。
「お、俺の、身体の、下に、隠し、扉が、あ、る・・・そ、こ、から・・・・ ・・・」
 エトヴァの瞳から光りが消えた。フランシスは虚空を見詰めているエトヴァの目蓋を閉じてやり、短く冥福を祈った。そして、すぐに立ち上がるとエトヴァを潰していた柱を退かしに掛かる。その娘が生きている確証はないが、急いだ方がいいだろう。またガルディレアが戻ってくるとも限らないのだから。フランシスの中に激しい怒りが込み上げてきた。奴のおかげで失った命がどれほど多いか。そうして憎々しげに呟く。
「・・・復讐の理由が1つ増えたな。ガルディレア」
 苦労して柱とエトヴァの遺体を退かして、血に染まったカーペットを引き剥がしてみると、果たして隠し扉があった。自分の知る限り、エトヴァは倒れてくる柱を避けられないほど鈍重ではなかったはずだ。恐らくこれを守るために身を挺したのだろう。
 警戒しつつ扉を開けてみると、すぐ下に梯子が掛かっている。フランシスは一瞬躊躇したが、素早く梯子を降りていった。彼が守っていたのだ、敵がいることはまずないだろう。梯子を降りると、身を屈めなければ通れない横穴があり、その先に微かに明かりが見えている。フランシスは足音を立てないように慎重に進んでいった。
 突き当たりは様々な武器が置かれている武器庫になっていた。恐らくは店に出す武器の在庫を保管してあるのだろう。フランシスはすぐには入らずに、通路から様子を伺う。明かりが点けられているので、中の様子は概ね見て取れるが人影は見えない。しかし、人がいる気配ははっきりと感じられる。しかも僅かに殺気も発せられているのだ。これでは隠れている意味がないが、まだ気配を隠す術を知らない子供なら仕方ないことだろう。フランシスは苦笑しながら、中に向かって声を掛けた。
「娘。いるのだろう? お前の父親、エトヴァに頼まれて助けにきたぞ」
 暫し待ったが返事はない。そのことにフランシスは細く笑んだ。上等だ。このくらいでノコノコ顔を出すようでは、この先長くは生きていけないだろう。それに小さいながらも発せられている殺気も気になる。どのくらいの覚悟があるのか、試してみたくなった。
 フランシスはゆっくりと倉庫に踏み込んだ。気配から娘が隠れているだろう場所は判っている。果たして、まさにその場所から、小さな少女が飛び出してきた。不釣合いな長剣を腰だめにして突っ込んでくる。
「おっと」
 フランシスは身を捻るだけで難なく避ける。すると少女は剣の重さに引き摺られて、そのまま前のめりに転がった。それでも少女は、慌てて起き上がると向き直って眼前に剣を構えようとする。しかし、元より小さな子供に扱えるような剣ではない。先ほどの攻撃も突っ込む勢いを借りて一撃必中を狙ったのだろうが、それをかわされてはもう力も残っていないだろう。必死に構えようとするが切っ先が持ち上がらない。
半泣きになりながらも勝気に睨み返してきた目が、相手が女性であることが判って驚きに見開かれる。
「あ・・・」
 小さな声を上げた少女の手から剣が抜け落ちて、倉庫に大きな金属音が響く。そして少女はへなへなとその場にへたり込んだ。
フランシスは少女の前にしゃがんで目線を合わせると、安心させるように微笑んだ。
「怪我はないか?」
 フランシスの問いに、少女はこくりと頷く。幼いながらも美しい顔立ちの褐色の頬に真っ直ぐな黒髪が流れ落ちる。
「お前が、カサンドラだな?」
「・・・え?」
 カサンドラと呼ばれた少女が驚いて顔を上げた。
「どうして。名前を・・・」
「ローザから話は聞いている。歳の離れた妹がいると」
「ローザお姉ちゃん!? お姉ちゃんのお友達なの?」
「ああ・・・ 私はフランシスという。よろしくな」
「はい! あ。お姉ちゃんも一緒なんですか? 帰ってきてるの?」
 嬉しそうに聞いてくるカサンドラにフランシスは言葉に詰まる。
「・・・いや。残念ながら一緒ではない。詳しいことは後で話す。今は時間がない」
 そう言ってここを出るように促すと、カサンドラも立ち上がった。しかし、少しの間フランシスをじっと見詰めていたが、やがて意を決したようにフランシスに問い掛ける。
「・・・お父さんは?」
 フランシスは一瞬躊躇ったが、誤魔化しても仕方がない。ここを出れば判ることだから。
「残念だが・・・」
 そういってフランシスは首を横に振った。カサンドラは一瞬泣き出しそうな顔になったが、それをグッと堪える。
「村は、他の人たちは?」
 その問いにもフランシスは無言で首を振る。カサンドラは長く深い溜息をついた。
「そうですか・・・ 私たちだけに、なってしまったんですね・・・」

 地上に出たカサンドラはあまりの惨状に声も無く立ち尽くした。父親と姉のローザと幸せに暮らしていた家は跡形も無く焼け落ち、美しかった街並みは見る影もない。
そして愛する父親の変わり果てた姿。いつも優しく頭を撫でてくれた暖かい手も、今は氷のように冷たくなっていた。その手を握って父親を見詰めるカサンドラは、しかし涙は流さなかった。
きつく唇を結び必死に堪えているような少女の姿を、フランシスはいたたまれない思いで見詰めていた。さすがにこの状況で姉のローザも亡くなっているとは言えなかった。フランシスのその手には子供の握り拳くらいはあろうかという特大の紅い輝晶石が握られている。ローザが持ち帰り、父親のエトヴァから守れと託されたものだろう。確かにこれほど大きな輝晶石など見たことがない。持っているだけでその魔力の大きさが感じられるほどだ。ガルディレアはこれを狙っていたに違いない。
 カサンドラを不憫に思うが、これ以上長居はしていられない。またいつガルディレアが戻ってくるとも限らないのだ。
「カサンドラ。すまないが、弔ってやる時間はない」
「・・・はい。わかっています」
 カサンドラは立ち上がると、焼け野原となった村を見回し、最後にもう一度父親を見下ろして短く黙祷した。そして決然とした顔をフランシスに向ける。
「フランシスさん」
「フランシスで良い。なんだ?」
「あ、えーと、フ、フランシス・・・ 私に・・・私に戦いを、戦い方を教えて下さい!」
「・・・習ってどうする?」
「お父さんと、村のみんなの仇を討ちます!」
「できるのか?」
「今はまだ力がありません・・・ でも強くなります! なってみせます! そして、フランシスやローザお姉ちゃんと一緒に戦えるようになります!」
「・・・そうか」
 まだ10歳とは思えない強い想いに、この子なら成し遂げるかもしれないとフランシスは思った。なんの目的もなく、ただ食い繋ぐために賞金稼ぎを続けてきた自分が急に恥かしく思えてきた。しかし、自分にもまだできることがある。ローザにこの子のことを頼まれたということを抜きにしても、この先の人生を、この子の想いを遂げさせるために使うのも悪くないかもしれない。そしてそれは必然的にローザの仇を討つという自分の目的にも繋がっている。フランシスはそう思うと晴れ晴れしい気持ちになった。
「・・・わたしと共にくるか? カサンドラ」
 フランシスの言葉に、カサンドラの顔がほころんだ。そして、勢いよく頷く。
「はい!」

 フランシスは、村外れにつないでおいた馬に跨ると、カサンドラに手を差し伸べた。その手を取って馬の背に上がろうしたところで、カサンドラは村の方を一瞬振り返ったが、唇の噛み締めて向き直るとフランシスの後ろに跨る。
「いくぞ」
「・・・はい」
 そういってカサンドラはフランシスの背中にしがみついた。もう振り返らないと心に決めた。
 二人を乗せた馬は森の中を駆ける。しばらく走ったところでフランシスは少し馬足を弱めた。そして自分の背中にしがみついて顔を伏せている少女に声を掛ける。
「カサンドラ」
「はい・・・」
 カサンドラは顔を伏せたまま小さく応える。
「カサンドラ。お前はまだ子供だ」
「はい・・・分かっています」
 フランシスは馬を走らせたまま、優しく言った。
「子供は、泣きたいときには泣いてもよいのだぞ」
 フランシスの言葉に、カサンドラの身体が震えると、しがみつく力が強くなった。そして抑えていた嗚咽は、次第に大きくなり、カサンドラはフランシスの背に縋って泣いた。
「うぇぇん。お父さん! おとうさん! どうして! どうしてぇ! あぁぁ!」

 グランドサーフェスの山に様々な想いが静かに吸い込まれていった。

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真夜中の戦女神
(ギルドマスター:ラトウェル)

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